Lamp in S.B.S.
ネット物書き音沼紗春の日記。 日常と、文章について。 時々、サイトの更新情報。
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16と17「紙コップと糸」
密室真実って知ってますか?
適当掌編小説、ってことで。
要するに、失敗作とか、未完成な作品を、飾るほどじゃあないけれども、一応並べてみようか、っていうカテゴリなのですが。
なんつって。
競作小説企画さまの「糸電話」で考えつつも続きがかけなくてつまった2作品を、まとめてどうぞ。
両方短いのです、多分。
適当掌編小説、ってことで。
要するに、失敗作とか、未完成な作品を、飾るほどじゃあないけれども、一応並べてみようか、っていうカテゴリなのですが。
なんつって。
競作小説企画さまの「糸電話」で考えつつも続きがかけなくてつまった2作品を、まとめてどうぞ。
両方短いのです、多分。
糸電話―公園
必要なのは糸。それから紙コップ。
紙コップの縁を唇で挟む。暖かいカフェオレの香りが鼻にふわふわと入り込んでくる。
裁縫道具は持っている。だから、必要なものはそろっていた。口にくわえた紙コップ。ポシェットの中の針と糸。いつでも携帯しているから、だから通話することができる。
カフェオレをこくりとのどに落とした。
了?
糸電話―関係
わたしは毛糸玉を抱えている。彼はそこから伸びる一本の糸の端っこを持っている。
わたしたちは普段、一緒に歩いている。毛糸玉を抱えなおしながら、糸を体に巻き付けて遊びながら。仲良く談笑しながら、普段は平凡で幸せな日々を送っている。
二人の若い女の子がいた。お互いに顔を背けて、口を尖らせている。顔を赤くして、泣き出しそうな顔をしているのにつんとすましていた。喧嘩したものらしかった。
わたしたちは顔を見合わせて深く頷く。久しぶりの仕事だ。
毛糸玉を抱えたわたしと糸の端っこを持った彼は、それぞれ片方の少女のぐるりを回った。糸がゆっくりと二人の少女にまきつく。どちらの少女にも二周ほど糸が巻かれただろうか。二人を結ぶ糸がピンと張った。糸の端っこを持った彼と、まだまだ余りある毛糸玉を抱えたわたしは少しばかり息を切らせて、顔を見合わせた。
ゆっくりと二人の少女は振り返る。潤んだ瞳でお互いを、まだ不満そうに見つめる。やがて、同時に手を伸ばした。照れたように笑って、お互いの手を握った。
「ごめんね」
「ううん、わたしこそごめんね」
わたしたちは急いで糸を回収する。彼が糸の端っこを持って解きながら、わたしは大きな毛糸玉に丁寧に糸を巻き付けていく。この作業をぞんざいに行ってしまうと、直る関係も直らなくなってしまう。伝わるはずの言葉は絡み合う糸の中でこんがらがって、もしかすると関係は余計にこじれてしまうかもしれない。だから、わたしは丁寧に丁寧に巻きとる。大事な仕事道具。大事なつながり。彼もわかっているのか、巻きとりやすいように端っこを持っていてくれる。ほとんど巻きとって、あとはわたしが抱える毛糸玉と彼の持つ端っこと、その間でわずかに垂れるばかりとなった。
わたしたちはその場を去る。二人の少女は手をつないで微笑んでいる。それを見てわたしたちも微笑みながら、糸の端っこを持って、毛糸玉を抱えて、またどこかへ歩き出す。
いつから歩き続けているのかは知らない。たぶん彼も知らないだろう。それでもわたしたちは歩き続けるし、時々人と人の間をつないでいく。
何度も人の間をつないできた糸は、わたしの腕の中で丸くなっている。抱えなおして、また歩き出す。
二人の男女がいた。お互いに激高して、髪を逆立てながら相手を威嚇している。罵りあう二人を前にして、わたしたちは顔を見合わせる。夫婦喧嘩は犬も食わぬ。しかし、わたしたちは繋がなければならない。久々の大仕事の予感に、わたしたちは二人のぐるりを回る前に、手を握った。顔を見合わせて、言葉は交わさず、ただ深く頷くと、毛糸玉を抱えたわたしは女の人の方へ、糸の端っこを握った彼は男の糸の方へ。
ぐるりぐるり。糸を二人の男女をそれぞれに巻き付けていく。激しい感情を露わにする二人に丁寧に巻き付けていくのは困難な作業で、大きなカジキを相手取る漁師になった気分だった。
毛糸玉が小さくなっても、いつまでも糸はたるんだままだった。このままじゃ、気持ちは伝わらない。焦るように、わたしと彼はぐるりを回る。
「ねえ、あなたもそう思わない?」
女の人がわたしを振り向く。目を赤くして見開きながら、彼女は叫ぶように言う。
「最低な男よ、大嫌い」
何かを振り払うように、女の人は手を振る。何か、というのは糸だったのだろう。毛糸玉を抱えたわたしの体が宙を舞う。毛糸玉をしっかり抱えたまま、わたしはぶんぶんと振り回される。何度も何度も使ってきた糸が、少し、嫌な音を立てた。その音で、わたしは足を踏ん張った。切れてしまうわけにはいかない。もう少しでつながりそうだというのに。ここで諦めたくはない。
足を踏ん張って、半ば振り回されながらも、強引に女の人に糸を巻き付けていく。
了?
必要なのは糸。それから紙コップ。
紙コップの縁を唇で挟む。暖かいカフェオレの香りが鼻にふわふわと入り込んでくる。
裁縫道具は持っている。だから、必要なものはそろっていた。口にくわえた紙コップ。ポシェットの中の針と糸。いつでも携帯しているから、だから通話することができる。
カフェオレをこくりとのどに落とした。
了?
糸電話―関係
わたしは毛糸玉を抱えている。彼はそこから伸びる一本の糸の端っこを持っている。
わたしたちは普段、一緒に歩いている。毛糸玉を抱えなおしながら、糸を体に巻き付けて遊びながら。仲良く談笑しながら、普段は平凡で幸せな日々を送っている。
二人の若い女の子がいた。お互いに顔を背けて、口を尖らせている。顔を赤くして、泣き出しそうな顔をしているのにつんとすましていた。喧嘩したものらしかった。
わたしたちは顔を見合わせて深く頷く。久しぶりの仕事だ。
毛糸玉を抱えたわたしと糸の端っこを持った彼は、それぞれ片方の少女のぐるりを回った。糸がゆっくりと二人の少女にまきつく。どちらの少女にも二周ほど糸が巻かれただろうか。二人を結ぶ糸がピンと張った。糸の端っこを持った彼と、まだまだ余りある毛糸玉を抱えたわたしは少しばかり息を切らせて、顔を見合わせた。
ゆっくりと二人の少女は振り返る。潤んだ瞳でお互いを、まだ不満そうに見つめる。やがて、同時に手を伸ばした。照れたように笑って、お互いの手を握った。
「ごめんね」
「ううん、わたしこそごめんね」
わたしたちは急いで糸を回収する。彼が糸の端っこを持って解きながら、わたしは大きな毛糸玉に丁寧に糸を巻き付けていく。この作業をぞんざいに行ってしまうと、直る関係も直らなくなってしまう。伝わるはずの言葉は絡み合う糸の中でこんがらがって、もしかすると関係は余計にこじれてしまうかもしれない。だから、わたしは丁寧に丁寧に巻きとる。大事な仕事道具。大事なつながり。彼もわかっているのか、巻きとりやすいように端っこを持っていてくれる。ほとんど巻きとって、あとはわたしが抱える毛糸玉と彼の持つ端っこと、その間でわずかに垂れるばかりとなった。
わたしたちはその場を去る。二人の少女は手をつないで微笑んでいる。それを見てわたしたちも微笑みながら、糸の端っこを持って、毛糸玉を抱えて、またどこかへ歩き出す。
いつから歩き続けているのかは知らない。たぶん彼も知らないだろう。それでもわたしたちは歩き続けるし、時々人と人の間をつないでいく。
何度も人の間をつないできた糸は、わたしの腕の中で丸くなっている。抱えなおして、また歩き出す。
二人の男女がいた。お互いに激高して、髪を逆立てながら相手を威嚇している。罵りあう二人を前にして、わたしたちは顔を見合わせる。夫婦喧嘩は犬も食わぬ。しかし、わたしたちは繋がなければならない。久々の大仕事の予感に、わたしたちは二人のぐるりを回る前に、手を握った。顔を見合わせて、言葉は交わさず、ただ深く頷くと、毛糸玉を抱えたわたしは女の人の方へ、糸の端っこを握った彼は男の糸の方へ。
ぐるりぐるり。糸を二人の男女をそれぞれに巻き付けていく。激しい感情を露わにする二人に丁寧に巻き付けていくのは困難な作業で、大きなカジキを相手取る漁師になった気分だった。
毛糸玉が小さくなっても、いつまでも糸はたるんだままだった。このままじゃ、気持ちは伝わらない。焦るように、わたしと彼はぐるりを回る。
「ねえ、あなたもそう思わない?」
女の人がわたしを振り向く。目を赤くして見開きながら、彼女は叫ぶように言う。
「最低な男よ、大嫌い」
何かを振り払うように、女の人は手を振る。何か、というのは糸だったのだろう。毛糸玉を抱えたわたしの体が宙を舞う。毛糸玉をしっかり抱えたまま、わたしはぶんぶんと振り回される。何度も何度も使ってきた糸が、少し、嫌な音を立てた。その音で、わたしは足を踏ん張った。切れてしまうわけにはいかない。もう少しでつながりそうだというのに。ここで諦めたくはない。
足を踏ん張って、半ば振り回されながらも、強引に女の人に糸を巻き付けていく。
了?
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