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Lamp in S.B.S.

ネット物書き音沼紗春の日記。 日常と、文章について。 時々、サイトの更新情報。

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ぜつぼうしょうじょ

やっべ、しにてえ。

ところでさいきんぜつぼうしたんだ、ききたまえ。
ひとがしょうせつにもとめているのはぶんしょうじゃなくてすとーりーなんだよ。
かきかたなんてきっともとめていないんだ。
だからやまだぼうとかけたいしょせつとかにんきなんだ。
そしたらなんかぜつぼうした。

なんかさいきん、おことひいてるときだけじしんんがあるよね。
ふはは、しにてえ。しねそう。
しねば?

そっきょうしょうせつかきたくなった。

お金と言うものは大事だと思うし、時間と言うものも大事だ。
小学校が終わった時間で、15時頃。
まだ昼で、帰ったらそのまま遊びに出なければいけないと皆言う。
でも僕はちゃんと勉強をしようと思う。将来必要なことだし。
今日は少し涼しい日だった。
「お前って絶対じいちゃんだよな」
シンタロウはそうやって言うけれど、なんというか、ただ単に大人なのだと思う。
僕は他の子供達より早く大人になれたのだと思う。
「マサキ絶対小4じゃないよ」
「うるさいなあ。シンタロウだって小4にみえないじゃん。小2だよ、ぜったい」
シンタロウはうるさく抗議してきた。
こういうところが子供で、冷静に対応している僕は大人なのだ。
ユウエツカンにひたっていると、ふと向こうの信号で手を振っている人が見えた。
僕はため息をついた。
「よう、カネナリ少年、元気にしてたかい?」
隣の家のお姉さんで中学3年生、名前はサハルだ。
彼女は不登校で、学校に行っていないのだと聞いている。
そのわりに軽快な人で、なんだか生意気な人だ。
隣でシンタロウが、カネナリ? とサハルさんに聞いた。
僕とシンタロウは親友だしサハルさんは時々家に遊びに来るのでシンタロウとサハルさんも知り合いだ。
「イシハラ少年じゃないか。聞きたまえ、この前わたしにお金は大事だ時間は大事だ、だから学校に行かずに勉強もしていないサハルさんはダメダメで勉強か仕事をするべきだと説教しやがったんだ。そのときにうるさいくらいに『時は金なり』と叫んでいたから『常盤金成』という名前をつけてやったんだ。『時羽金成』の方が良いかとも思ったがね。まあ音を重視したんだよ」
この人は延々とよくわからないことを小難しく面倒に伝える人だ。
僕なら「時は金なり、ってよく言ってるからそういうあだ名にしたんだ」で終わらせる。
こういう簡潔さも大人には必要なのだと思う。
「だから、イシハラじゃないってば」
「それもあだ名だ。そういう人がいるのだよ、イシハラ少年。ヨシズミよりはいいと思うのだがね」
彼女は時々意味の判らないことを言う。
家にこもってテレビをずっと見ているせいでいろんなことを知っているのかもしれない。
でも算数なら勝てるんじゃないか、って思う。勝負したことはないけれど。

シンタロウと別れて、サハルさんは僕の家に勝手に上がった。
お母さんと言葉を交わして、階段を上る僕の後ろについてきた。
「さすがユキさんだね、掃除が行き届いている」
階段を眺め回すサハルさんを無視して部屋へはいる。
彼女はそこにもついてくる。
ランドセルを置いてプリントと宿題を出していると、サハルさんは勉強机の椅子に足を組んで座っていた。
とても偉そうだった。
右手がキャラクターの形をした貯金箱をつかむ。
勉強机をとられたので僕はしかたなく来客用の小さな机を出してひろげた。
宿題と筆入れを置いて、正座する。
サハルさんは貯金箱を振る。
ジャラジャラと重い音がこもっている。
開けていい、と聞かれたのでだめです、と答えた。
不機嫌そうに笑ったサハルさんは、だがにやりとわらい、貯金箱をこちらに投げよこした。
あわててキャッチすると、ずい、と彼女の顔がこちらに近付いた。
「手品を見せてやろう。硬貨を一枚貸してくれ」
にやにやといやらしく笑うサハルさん。
このままほうっておくと勉強の邪魔をしてくるのでしかたなく僕は貯金箱の下をあける。
振りながら手を当てると、一番最初に500円玉硬貨が飛び出してきた。
旧500円玉と呼ばれる銀色の硬貨で、今は金色の新500円玉が増えているため少し珍しい。
最初に出てきたのでそれをサハルさんに渡した。
珍しいねえ、と少しだけ楽しそうに笑った。
彼女はそれをコイントスするためか、コップをつかむような形の拳をつくり、人差し指の上に500円硬貨を置いた。
「いいかい、今からこれを弾くから、よく見てるんだ」
にやにやとサハルさんはいやらしく笑った。
キン、と音が響いて硬貨が飛ぶ。
僕はそれを目で追った。
くるくるぐるぐると回りながら時々光が反射している。
銀色の球体が見えるのは目の錯覚。
20cmほど上がってから勢いはなくなり、回り続けながら落下する。
サハルさんは弾いた後手を引っ込めていた。
彼女の手があったはずの場所に、硬貨が落ちていく。
そして消えた。
「あ」
そして部屋は真っ暗だった。
慌てて辺りを見渡すが、確かに僕の部屋。
だが今まで青空が明るく広がっていたはずの青空はなく、真っ黒に少し紫を混ぜたような夜空が広がっていた。
時計に目をやると、月明かりがうまく入っておらず、読み取れなかった。
だが15時過ぎではないようだった。
手元の宿題も貯金箱もそのままで、何故か夜になっていた。
わけがわからない。
顔を上げた。
サハルさんは僕の勉強「机」の上に座っていた。
足を組んで、にやにやと笑う横顔が月明かりで白く光っていた。
「あれあれ、5時間も何もせずに過ぎてしまったよ、カネナリクン。どうしよう?」
何も言うことなどできなかった。
サハルさんは何が面白いのか、声を立てて笑い始めた。
それはとても不愉快だった。
やがて笑いを止めたサハルさんは、やはりコイントスをするような手の形をした。
ただしコインは乗っていなかった。
だけどサハルさんは親指を弾き、キン、という音がした。
何も飛んでいない。
でも僕はさっきの旧500円玉のような軌跡を目で追っていた。
そして彼女の手の中にソレが戻っていく。
手の中に入る。
「あ」
そして部屋が明るくなった。
時計を見上げると15時過ぎを指していた。
宿題や貯金箱はそのままで、窓の外には青空が広がっている。雲も同じだ。
そしてサハルさんは勉強机の椅子に胡坐をかいて座っていた。
握られた拳がこちらを向いている。
「やあ、どうしたねカネナリクン」
にやにや笑うサハルさんは、とてもとても楽しそうだった。
少しだけ声を立てて笑うと、サハルさんは手の形を変えた。
カードゲームをするときの手札の持ち方だった。
そのまま指に力がこもったのがわかる、そして親指が動いて。
人差し指と親指の間から銀色のコインが現れた。
パームなんとか、といって確か手品の技術だったと思う。
サハルさんはそれを指で弾いて僕のほうに飛ばした。
慌ててキャッチすると、それは時計だった。否、時計の模様のコインだった。
裏返しても、旧500円玉ではなかった。
「ではまた会おう、『Time is Money』少年」
片手を上げて彼女は窓から外へ出た。
僕の部屋から彼女の部屋へは屋根伝いに行き来することができるのだ。
窓から彼女が出て行った代わりに、同じ窓から風が入ってきた。涼しい。
僕は時計のコインをゆるい拳の人差し指の上に置いた。
親指を弾く。コインが飛ぶ。くるくる回る。落ちてくる。
「たいむいず、まねい」
それが「時は金なり」の英訳なことは知っている。
落ちてきたコインが右眉辺りに当たって痛かった。
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