Lamp in S.B.S.
ネット物書き音沼紗春の日記。 日常と、文章について。 時々、サイトの更新情報。
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密室真10回目行くよー。
10番。Bとかミニとかしながら、本編がようやく10番です。
突発掌編書きなぐり小説密室真実です。
「約束」はなんだっけ。
どっかで「約束」という言葉を見て、なんとなく思いつきました。
全ての台詞に「約束」を入れる、という遊び。
を、している男女。という設定。
彼らも遊んでいるのです。みたいな。でも設定を、相談抜きでやってるからそっちに集中して、「約束」をいれるという「約束」を忘れてしまったわけです。
ちょっとわかりにくい。
これから3つは競作小説企画クラウン様のテーマ「キセキ」で考えてたネタたちです。
突発掌編書きなぐり小説密室真実です。
「約束」はなんだっけ。
どっかで「約束」という言葉を見て、なんとなく思いつきました。
全ての台詞に「約束」を入れる、という遊び。
を、している男女。という設定。
彼らも遊んでいるのです。みたいな。でも設定を、相談抜きでやってるからそっちに集中して、「約束」をいれるという「約束」を忘れてしまったわけです。
ちょっとわかりにくい。
これから3つは競作小説企画クラウン様のテーマ「キセキ」で考えてたネタたちです。
・鬼籍
葬式の、ホールの正面に大きな祭壇があった。祭壇というのかは知らない。だけどわたしは他に言葉を知らない。あれはすごく大きかった。けれど、それを覆い潰してしまうほど、祭壇の上には空間があった。その、何もないという空間がわたしは怖かった。すすり泣く声、死人、お経。何かがその空間にたまっていってしまうのではないかと思うと、わたしは怖くてたまらなかった。
斎場。祖父が、燃えていく。黒い服を着てたたみの上で皆がくつろいでいる。皆は久々に会った顔と近況、少し古い話を持ち出して語り合っている。わたしは、いとこの子供の相手をしていた。小さな女の子。3歳だっただろうか。おませな女の子で、ぺらぺらと喋り続けている。この年の子にしてはよくしゃべるほうらしい。
「げんこっつやっまのー」
甲高い声で歌いだす。先ほどからこの歌ばかり歌っている。突然、唇の隙間から這い出るようにその歌は出てきていた。まるで沈黙をふさぐために存在するかのような歌だ。歌い終えると、きゃはっ、と立ち上がって、机の上の指人形をはめる。これがね、と説明してくれるのをわたしは一所懸命に聞いてやる。子供は嫌いではない。かわいいと思う。ただ、どう接すればいいのかはわからない。
彼女を兄に任せ、わたしはトイレに、と席を立つ。部屋を出て、足音の重い絨毯を歩いてトイレへ行く。ハンカチで手を拭きながら、辺りを軽く探検した。わたしたちのいたような部屋がいくつかと、給湯室のような場所があった。それ以外は特に何もない。それこそ、トイレくらいなものだ。
行き止まりの先にある窓から外を見下ろし、駐車場をざっと眺めてから来た道を戻ろうとする。半分だけ振り返って、足を止めた。
「迷うことはないさ、どうせなら、やればいい」
祖父はそう言った。
掻き消えた幻影のその姿と声をしばし反芻してから、わたしはあの部屋へ戻るべくして歩き出した。なぜ、わたしなのだろう。付き合いがそうあるわけではなく、彼が死んでも涙を流しもしない、悲しくもない。そんな孫娘の元になぜ現れたのだろう。
悩んでいたせいか。
「ややっちゃんっ」
舌ったらずな声に呼ばれて、わたしは祖父の親類が集まる部屋へと戻っていく。今日が終わって、また日常に戻ったら、もしかすると祖父と今日出会ったことなど忘れてしまうかもしれない。だが、今は、「やってみよう」と、思っている。
「楽しかったね」
斎場からの帰り道、喪服の人々が並ぶバスの中で、小さな少女は言った。
わたしは苦笑いしか出来なかった。火葬をしにいったのだから、ねえ。
了
葬式の、ホールの正面に大きな祭壇があった。祭壇というのかは知らない。だけどわたしは他に言葉を知らない。あれはすごく大きかった。けれど、それを覆い潰してしまうほど、祭壇の上には空間があった。その、何もないという空間がわたしは怖かった。すすり泣く声、死人、お経。何かがその空間にたまっていってしまうのではないかと思うと、わたしは怖くてたまらなかった。
斎場。祖父が、燃えていく。黒い服を着てたたみの上で皆がくつろいでいる。皆は久々に会った顔と近況、少し古い話を持ち出して語り合っている。わたしは、いとこの子供の相手をしていた。小さな女の子。3歳だっただろうか。おませな女の子で、ぺらぺらと喋り続けている。この年の子にしてはよくしゃべるほうらしい。
「げんこっつやっまのー」
甲高い声で歌いだす。先ほどからこの歌ばかり歌っている。突然、唇の隙間から這い出るようにその歌は出てきていた。まるで沈黙をふさぐために存在するかのような歌だ。歌い終えると、きゃはっ、と立ち上がって、机の上の指人形をはめる。これがね、と説明してくれるのをわたしは一所懸命に聞いてやる。子供は嫌いではない。かわいいと思う。ただ、どう接すればいいのかはわからない。
彼女を兄に任せ、わたしはトイレに、と席を立つ。部屋を出て、足音の重い絨毯を歩いてトイレへ行く。ハンカチで手を拭きながら、辺りを軽く探検した。わたしたちのいたような部屋がいくつかと、給湯室のような場所があった。それ以外は特に何もない。それこそ、トイレくらいなものだ。
行き止まりの先にある窓から外を見下ろし、駐車場をざっと眺めてから来た道を戻ろうとする。半分だけ振り返って、足を止めた。
「迷うことはないさ、どうせなら、やればいい」
祖父はそう言った。
掻き消えた幻影のその姿と声をしばし反芻してから、わたしはあの部屋へ戻るべくして歩き出した。なぜ、わたしなのだろう。付き合いがそうあるわけではなく、彼が死んでも涙を流しもしない、悲しくもない。そんな孫娘の元になぜ現れたのだろう。
悩んでいたせいか。
「ややっちゃんっ」
舌ったらずな声に呼ばれて、わたしは祖父の親類が集まる部屋へと戻っていく。今日が終わって、また日常に戻ったら、もしかすると祖父と今日出会ったことなど忘れてしまうかもしれない。だが、今は、「やってみよう」と、思っている。
「楽しかったね」
斎場からの帰り道、喪服の人々が並ぶバスの中で、小さな少女は言った。
わたしは苦笑いしか出来なかった。火葬をしにいったのだから、ねえ。
了
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