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Lamp in S.B.S.

ネット物書き音沼紗春の日記。 日常と、文章について。 時々、サイトの更新情報。

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一匹の蟻

密室真実ですどーん。

前回分は9月9日の「誘拐しましょ」ですか。
車が盗めそうだったので盗んでみたくなって盗んだら、男の子が乗っていて、複雑な家庭事情があったので以下略、というようなお話でした。

つうか、前回分を解説するという謎のシステムがあったのですが、やめます。
最近は、あとがきの不要さというものを実感しつつあるのです。書き手としては。
でも読み手としてはほしいんだよな、うーむ。

今回のは、授業中に書いていたものです。テーマは蟻。
似非文語体ですご容赦ください。文語体でちゃんと書けたら楽しそうだなあ。



・蟻が行く季節

 蟻は、降つてくるのでせうか。黒くて小さくてわらわらとしたあれのことです。三つのつぶつぶが別個にあるといふのに不思議と連なり、小刻みに地面を這い回るあれのことです。わたくしは、あの小指の爪より小さゐのに意志を確固と持つて地面を這うあれを少々気味悪く思つておりました。
 ある時、知人がわたくしにこふ言つたのです。「蟻といふのは、ふと気がつひた折に手の上などにおりませぬか。あれは何故なのでせう」知人は己の手の甲を見やり、そこで黒くて小さな蟻が惑つておりそれをおもしろがつてゐるやうでした。「さふいへば、確かにくすぐつたひと思ひて顔に手をやると、蟻を潰してしまつてゐることがござひます。あれは気味が悪うござひますね」とわたくしが言ふと、知人はおやおやと上品に笑つておりました。
 蟻が辺りにおりますのは、日差しの厳しい夏の間です。嗚呼また夏が来たのかとさふ思ふ頃にはもう、蟻はいつのまにかうじやうじやと庭を覆っております。あれは、あの蟻といふ虫は、お天道様の灯に乗つて、ここらへ降りてくるのではないでせうか。上から、上から。人々が空を見上げ、眩しひと目を細めてゐる間に、あれが降つてきてゐるのです。だから、屋根の上や手の上、頭の上、顔の上にいつのまにか乗つてゐるのです。
 わたくしは青空を見上げます。まだ夏ではありませぬ。しかし、日差しは眩しうございました。わたくしはそれでも目を凝らします。嗚呼、黒くて小さなそれが降つて参ります。わらわらと。さんさんと。
 まだ夏ではありませぬ。しかし、そろそろ夏が始まらふとしているようです。


 了
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