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Lamp in S.B.S.

ネット物書き音沼紗春の日記。 日常と、文章について。 時々、サイトの更新情報。

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密室真実ナンバー9

密室真実、ようやく、今度は二桁です。
適当掌編小説書きなぐり企画ー。

前回は「帽子」
太陽の光から頭を守る、帽子の話。
「帽子を買いに行こうと思った」から始まるストーリー、ってだけしか考えてなかった。
そのまま没はもったいないので、密室真実ネタに。




・約束

「約束したじゃないか」
眼鏡をかけ、くせっ毛の黒髪をもじゃもじゃと伸ばした男だ。困ったような表情で、目の前の女性を見つめている。
「約束? 馬鹿なこといわないでよ」
彼女は茶色のロングヘアを毛先だけくるんと巻いており、つんと澄ましている。2人がいるのは喫茶店だ。昼とおやつの時間の、丁度間にあたる今は人もあまりおらず、2人の近くに、他に人はいなかった。
「そんな。ちゃんと約束したさ、忘れたっていうのかい?」
「忘れたも何も、約束なんてしないわ。絶対よ」
2人の間には剣呑な空気が流れていた。困ったような男性と、怒ったような女性。コーヒーを時々傾けながら、2人は顔を突き合わせている。
「何を言うんだ、約束したじゃないか、ちゃんと『約束だよ』って、君が言ったんじゃないか」
「『約束だよ』ですって? 言ってないわよ。あなたの妄想じゃないの?」
「んんー、もう、君が約束を覚えてないなんて、予定外だ。まったく、どうしたらいいんだろう」
「夢の中で約束したんじゃないの? いいじゃない、このままでも」
眉間にしわを寄せた男に対して、女性は冷めた様子のままだ。
「いいや、それは嫌だね。約束したのは確かなんだし」
「わたしが覚えてないのも確かよ。『約束』なんて、した覚えないもの」
「ううむ、まったくどうしたものか」
「そこまで悩むことでもな」
「ああっ」
突然、男が大げさに驚いて見せた。喫茶店にいた他の客や、従業員の視線が集まる。女もぎょっと驚き、目を見開いて相手の顔をまじまじと見た。そして、あ、と気がついたように言った。
2人で顔を見合わせ、眉尻を下げながら笑いあう。あーあ、とどちらからともなく言った。
「あー、くそ。話題の方に熱中しちゃったなあ」
「わたしも気にしてなかったわ」
くすくす、と笑いあいながら、コーヒーを傾ける。先ほどの剣呑な空気とは打って変わって、和やかな雰囲気になっていた。
「でもどうせ、わたしはもう時間だわ」
「ああ、そう? 悪いね、付き合わせちゃって」
「いいのよ、『約束』じゃない」
悪戯っぽく笑った女に、男も共犯者のように楽しそうに笑った。さて、と男も席を立ちながら伝票を取る。
「今度はどう? いつ会える?」
「そうね、また明日の夜にでもメールするわ」
「おーけい、『約束』だ」
うふふ、と嬉しそうに女が笑う。男も、その表情を見て嬉しそうに顔を緩ませた。
会計を済ませ、店を出たところで、女が思いついたように言った。
「ねえ、メールでもやりましょうよ」
「何を?」
「だから、『約束』って言葉を毎回いれるの。さっきと同じよ」
男は唇をとがらせ、困った様な表情になる。女は首を傾げる。
「やだね、もう、面倒になっちゃったよ」
男の言葉に、女は顎をあげながら考える。人差し指を唇にあて、空を見上げる。今日は快晴だ。青空の下を、大勢の人や車が行き交っている。
やがて、女は笑った。
「それもそうね」
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